ピッチ?声量?歌唱力?「本物の歌」について考えてみた
数日前になりますが、現在ツアー真っ最中の「山下達郎 PERFOMANCE2011-2012」を見てきました。東京公演は全くチケットが取れない事を知っているので、わざわざ地方のイベンターさんツテを辿って当日券をゲット。車を飛ばして日帰りでのライブ参戦です。

18時半に開演して、22時近くまで約3時間半も休憩もなしでやる今回のライブは、過去の山下達郎ツアーを何度も見ている自分にとっても、本当に圧倒的で素晴らしいライブでした。もちろん、今回からは我らがGenertionGapの盟友、宮里陽太くん(宮ちゃん)がツアーに参加していることもあるんですが、そこを差し引いても本当に良かった。


・「歌」が本来持っている力って、どのくらいすごいのか。


達郎さんのライブに行ったことのある方はご存知と思いますが、コンサートで必ずやる見せ場のひとつに「アカペラ」があります。文字通り、バンドメンバーを一度ステージからはけさせて、自分ひとりで歌うのですが、先ほどまでバンドの音量、音圧の中でパフォーマンスした後に、照明やステージパフォーマンスを排して、歌(自分の声)ひとつでお客さんを魅了する、というのはなかなか出来ることではありません。

特にすごいのは、マイクを通さないで歌うパフォーマンスです。しかも達郎さんの生歌(なま声)は、ステージから客席の最後列まで、歌詞もハッキリ聞き取れるレベルで実に良く届きます。2000人キャパのホールでですよ!歌が上手いのはもちろん、声量というか、声の出し方を徹底的に追求していないと出来ない技です。

まもなく60歳を迎える達郎さんの生声が、ホールを満杯にしたお客さん全ての耳と、心に響き渡る。この瞬間を体験すると本当に鳥肌が立ちます。震えるんですよマジで(笑)。歌のチカラ、歌唱力の凄さってこういうものなのか、と。しかもですね、その生歌が「CDで聴くのと全く変わらない」上手さですから、もう凄いとしかいいようがない。

「クリスマスイブ」とか、CM等でもおなじみのあの「山下達郎の声」ってイメージ出来ますよね。あれがそのまんま、何も通さずに聴こえてくるんです。生歌なんだから当たり前だろ、て思うかもしれないけど、普通僕たちが聴く歌というのはCDであれライブであれ「電気的に拡声された」声です。ましてCDなんてのはバッチリ編集してMixした最高の状態の声だから、それが生と同じに聴こえる方が珍しい。

3時間半のステージを休みなくやって、その終盤に「いつまでこの声が出るかは分からないけど…」というMCの後での生声披露、しかももの凄い声量のシャウト!あんまり書くとネタバレになりますが(笑)、歌とか声だけでここまで感動させられる力があるのか、と感じざるを得ない圧巻のライブでした。


・だけど世の中は、どれだけ「本物の歌」を求めているんだろうか


ひるがえって、昨今のJ-POP音楽の流行を見ていると、もう「歌わない歌手」というのもある種のスタンダードになりつつあるというか、普通になってきている感じがあります。AKB48やその関連グループ、ジャニーズのほとんどのグループはTV収録では当然のように歌っていませんし、コンサートでも歌う曲よりも歌わない曲の比率が多いのは誰でも知っています。

アイドルグループだけではなくて、例えばPerfumeなんかも、CD制作の段階で本人の声を到底かけ離れたレベルまで楽器的に加工・編集しているわけで、こういった音楽を「歌っている」とするかどうかは、ぎりぎりの所だと思います。少女時代やKARAといったK-POPのグループも同様です。「良いか、悪いか」ではなくて、そういう制作手法、音楽表現がもう一般的になってきてる。

山下達郎と比べて、最近のアイドルグループは歌が上手くないから…とかそんなバカな事をいうつもりはありません(笑)。歌手やアーティストだからって、必ずしも歌う事を前提とはしてない時代なのかな、という風に思ったのです。歌番組で「口パク」してるからって、その事について今更どうこう思うこともないし、ファンの人も気にしてないって感じですよね。

TV番組の場合、番組の進行上いろいろなトラブルを未然に防ぐ為にアイドルグループでなくても口パクで収録する事は多くありますが、コンサートやライブを「歌わずに」やる歌手(?)の登場、そしてそういう人たちが時代に受け入れられて、人気もある。すると今度は、作り手の側も「それなら」という感じで、歌える事を必ずしも前提としない楽曲を作ったり、音声の編集をするようになる。

実際の話ですが、今はリアルタイムでも歌のピッチ直しが出来るので、ライブで口パクじゃなく本人が歌っていれば、必ず生歌だとは限らないんです。同様に、生歌・生演奏を売りにしている音楽番組がいくつかありますが、あれもTV局の音声さんがバッチリ修正・編集しています。それは「歌が下手だから」というよりも、そのアーティストの事務所側の要望であったり、そもそも何となく直しているケースも多い。

「歌」って、ピッチやその他をとにかく直すものという感覚があるのは、残念ながら今の音楽業界にいる人には否定できないと思います。歌手本人も、プロデューサーやディレクター、エンジニアも、歌ったからには「直す」のが常識で、「直す」という言葉が適当でないとしたら、「最高の状態になるようバッチリお化粧する」みたいな感じ。いずれにしてもそこを改めて考える人は少ないんです。

だから、実際にJ-POPで聴かれる歌のほとんどは、念入りに、やりすぎなくらい完璧にお化粧された歌だと思っていいし、そもそも本人の声とはかけ離れた「加工された音」に近いものも沢山あります。そういうものも「音楽」として楽しめる受け皿の広さを日本人は持っているのかもしれないけど。(海外では口パクやると相当に非難されるので)


・時代は変わっていく。同じように、歌もきっと変わっていくはず。


昔の歌番組をYoutubeなんかで観ていると、(申し訳ないけど)「歌が下手な」歌手やアイドルの人って、割と沢山いたんですよね。だけど、そんなに気にもならないし、今ではむしろちゃんと歌ってるなぁと思ったりもするわけです。すごく個人的な感覚ですが、SMAPの歌って結構好きで、あれだってそこそこちゃんとピッチ直してるんだけど、やっぱり歌ってるなって感じはまだ残ってる。

人間の声って、不安定なものじゃないですか。だからこそ、あれだけ鍛え抜かれた山下達郎の歌は「神技」だって誰もが感覚ですぐ分かるし、逆に不安定だからってダメかというと、必ずしもそうじゃないと僕は思います。ミックジャガーもトムウェイツもカートコバーンもとにかく歌が不安定ですが(笑)、だからこそロックなんだと思う。

上手い、下手の話ではなくて、歌うことそのものの力ってやっぱりあるんじゃないでしょうか。生で歌わなくて当たり前、歌は直して当たり前、っていうのは、作り手側も聞き手側も色々と損をしているような気がします。「歌手だけど、歌のプライオリティが高くない」タイプのアーティストが、現在のようにずっと人気であり続けるとも思えないですし。でもそれが当たり前だと思っていると、本当に歌える人はどんどん日本に少なくなるだろうから。

というわけで、改めて歌うことの力について考えさせられました。多分みなさんが思っている以上に、本物の歌ってどんどん世の中から少なくなっていると思います。何もかもが便利で、簡単に、ハイクオリティに「出来なかった」時代の方が、良いものは生まれ易かったのかもしれませんね。

それでは、また。
関連記事
スポンサーサイト



このエントリーをはてなブックマークに追加
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック