Spotifyで見えてきた、音楽の「黄金色の未来」
昨日Gizmodeジャパンからの記事発端で一気にヤフトピにまで載ってしまった「音楽ストリーミングサービス「Spotify」がついに日本に上陸か?」のニュース。僕も思わずTwitterで速報してしまいましたが、もちろんまだ噂段階で特別な動きがあったわけではありません。

この「Spotify」(スポティファイ)、まだ日本でのサービスを開始していないので、聴き慣れない方も多いと思います。是非今のうちに、どんな音楽ストリーミングサービスなんだろう?ということを頭の片隅にでも知っておいて欲しいのです。いや、知っておくだけなら絶対損はしないですから!


・音楽とのかかわり方に、大きな変化の波が訪れている


「Spotify」は2008年にスウェーデンで始まった、SNS機能を持つクラウド型の音楽配信サービスです。Spotifyが、例えばiTunesのようなメジャー音楽配信サービスと最も異なる点は、フリーミアム(基本サービスを無料で提供し、追加のオプションサービスには課金する)なサービスであること、そしてSNS(ソーシャルネットワーク)が中心であることでしょう。

まずフリーミアムの点について。Spotifyに登録すると「広告付き・月最大10時間まで」の条件で、登録されている楽曲から好きな曲が全て無料で聞き放題になります。ただしこれはストリーミングによる視聴なので、ダウンロードして携帯やmp3プレイヤーで聞くことは出来ません。パソコンで流しながら聞く感じですね。

これに対して、昨年の4月から「広告なし・時間無制限」で、且つダウンロードして携帯プレイヤーにいれる事も出来る有料プランがスタートしました。こちらは月9.99ユーロ(約1000円)。なので整理すると、

①月10時間までの制限で、好きな曲をパソコンで聴く事が出来る無料プラン
②時間・回数無制限で好きな曲を聴き放題、携帯にもダウンロードし放題の有料プラン


の二つがあります。もちろんどちらを選ぶかは自由。なのでずーっと無料で使い続ける事も(今の所)出来ます。

Spotifyの強みは、世界4大レーベルのEMI、ソニーミュージック、ユニバーサルミュージック、ワーナーミュージックとライセンスを交わし、加えて数万に及ぶ世界中のインディーズレーベルとも契約することで、1500万曲を超える登録楽曲の中から好きな音楽を聞き放題で楽しむ事が出来る点です。この手のサービスは、登録楽曲が魅力的かどうかはとても重要ですよね。

現在ヨーロッパ11カ国、そして昨年7月に正式スタートしたアメリカを含めた世界12カ国でサービスが始まっています。スウェーデンやフィンランドといった北欧では既に「音楽を聴く=Spotify」というぐらい普及していて、イギリスやフランスでも音楽配信サイトのシェアトップ、アメリカではわずか数ヶ月で爆発的に登録会員数が増えているそうです。


・今の音楽業界を変えようとする人達が取り組む、新しい価値観とは


個人的にSpotifyがすごいなぁと思うのは、昨年4月に上記の有料サービスを開始するまでの3年間は「時間無制限の無料聞き放題プラン(広告あり・ダウンロード不可)」だけだった事です。4月に有料・無料プランを設定し、さらに無料プランに時間制限を加えた際には、当然既存のユーザーから大きな反発がありました。

それでもこの有料モデルを導入したのは、そもそも初めからSpotifyは「音楽の違法ダウンロードをなくす為には、それをする必要が無いくらい便利で居心地のよいサービスを作ること」を念頭に、入念な時間と戦略をもって配信サービスを設計していたからだと思います。

実際に試すと分かりますが、Spotifyはストリーミング再生でダウンロードの待ち時間が無いため、iTunesプレイヤーと同じぐらい高速で音楽を次々と再生したり、自分の聴きたい音楽を膨大な楽曲の中から検索する事が出来ます。同時に、FacebookのようなSNSの機能があり、「イイね」によるレコメンドや友達同士での好きな音楽の共有、共感が非常に起こりやすいのです。



実際の所、Spotifyは世界最大のSNS「Facebook」と最も親和性が高い音楽配信サービスといえます。かつて「違法な音楽ファイルの交換サイト」として一世を風靡したNapstarの共同設立者であり、Facebookの初代社長であるSean parkerが、このSpotifyに投資家として「全面協力」をしているからです。

Sean parkerはSpotifyについて「素晴らしい音楽を世界中の人達が自由に共有でき、かつ同時にアーティストや創作者たちの生活を支えることも出来る、音楽の新しい黄金時代をもたらすサービス」と公式に声明を出しています。音楽業界に終りの始まりをもたらしたと言われるあのNapstarの創設者が、再び音楽業界を変えようとしています。


・これから先、音楽にはどんな事が起こるのだろうか


音楽がソーシャルな空間を「無料で自由に」行き来する事で、今までより遥かに多くの人が、遥かに多くの音楽に触れ、聴く事になる時代が来ます。今までは、例えば世界の端と端にいて出会うことのなかった「聴かせたい人」と「聴きたい人」のマッチングがSNSを通じて超効率的に行われるからです。

Facebookは、今までなら絶対に出会うことの無かったはずの世界中の人々との出会いをもたらし、多少の英語が出来ればその人の考えを聞いたり、意見を交わす事が出来ます。TwitterやMixiも同じで、SNSの中でそういった交流を楽しんで、知り合いを増やしたり、既存の友達との親交をより深めたり、みんなやっていますよね。

それと同じ事を「音楽」を介して行おうとしているのがSpotifyなんだと思います。iTunesやその他多くの音楽配信サイトと根本的に異なるのは、楽曲を売るサイトではなく、音楽を介したコミュニケーションがメインであること。魅力のある音楽は言葉の壁を越えますから、可能性はFacebook以上なわけです。

そうは言っても、無料で楽曲をやり取りし放題じゃ、一体どうやってアーティストやレーベルが収入を得るの?と考える方も多いでしょう。日本がこの手のサービス参加に強い抵抗があるのもこれが主な理由ですし、現にColdplayやAdeleといったSpotifyに楽曲を乗せない大物アーティストもいます。

AppleがiTunesを立ち上げた時も、多くの有名アーティストやレコード会社がそのビジネスモデルに不満や懐疑を示し、物議を醸しだしました。しかし今となっては、iTunesは音楽を買って聴くためのごく当たり前のサービスになっています。仮にSpotifyで配信しなかったとしても、YouTubeなどに投稿され、全く利益化できないような楽曲ダウンロードが今も、これからも行われる事は明らかなんです。

Spotifyが昨年有料化に踏み切った時、スウェーデンやフィンランドといった国の利用者の多くは「Spotify無しには音楽を聴く機会が無い」というくらいどっぷりハマっていました。結果、300万人以上の音楽ファンが、月10ユーロほどのお金であれば、それを払ってさらに楽しい音楽体験を続けるという「有料会員」の道を選んだのです。

またSpotifyはSNSなので、ソーシャル上でライブ情報のやり取りをしたり、チケットやグッズの販売を行う事も出来ます。PCで聴く分にはいくらでも無料、しかしダウンロードして携帯する為にはお金を払う、というやり方もとても理に適っている気がします。こうすればアーティストの収入機会は、増える事はあっても減る事はないわけですから。


・一歩先の未来を考える「きっかけ」になる存在


世界最大手のレコード会社、ユニバーサルミュージックUKのVice-presidentであるFrancis KeelingはSpotifyについてこう発言しています。

「音楽に関わる全ての人は、不正ダウンロードを無くし有料会員になってもらう流れの途中にはフリーのサービスが必要で、その間は権利所有者やアーティストが期待する利益とは異なる可能性があることを理解する必要がある。フリーサービスを受け入れることが、今後唯一音楽で利益を出せる方法になる」

この意見には僕も全く同感なのですが、レコード会社の取締役クラスの人がこういうことを言うようになった、というのはやはり時代が変わってきている証拠ではないでしょうか。少なくとも、日本のレコード会社の人には(仮にそう思っていても)なかなか言えない意見です。

日本でいつこのSpotifyがサービス開始となるか、それにはかなり多くの権利や既得権益に関るハードルがあります。ひょっとすると、現状のままでは日本では難しいかもしれません。ただ、SNSを通じたコミュニケーションの楽しさや、それがバイラルして広がる時のスピードやパワーの凄さを、僕達は既に知っています。

人間は、一度便利なもの、面白いもの、感動するものを知ってしまうと、それが無い状態ではなかなか満足が得られなくなってしまう生き物です。だからこそ、いいか悪いかは別にして、文化やテクノロジーは常に進化してきました。音楽もコミュニケーションも、遥か昔からみんな大好きで、ずっと手放せなかったもののひとつです。

前述のSean parkerは「Spotifyは音楽への海賊行為に対する最終回答だ。音楽に人生を捧げている全ての人たちが、これをきっかけに新たな収入を得られるようになる」と明言しました。音楽業界やミュージシャンの方は、この大きな流れの変わり目の中で、このSpotifyの存在は「音楽の未来をちょっと考えてみる」一つのきっかけになると思いますよ。


それでは、また。
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